過去問研究のススメ②

前回に引き続き、H27年の過去問を考察したいと思います。

H27年の課題は「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅」でした。

この年のポイントを以下に列挙します。

  1. 【建物用途の理解】
    本来の建物用途は高齢者向けの「集合住宅」であり、低層階に、地域住民と集合住宅の居住者が使用できるデイサービスがあるという構成を、正確にイメージすることが大切だったと思います。つまり、デイサービスのみの利用者が、集合住宅がある基準階にも簡単に行けてしまう動線計画は、基本的にNGだったと思われます。この辺りは、H23年とは明確に違う部分です。ここの違いを、まずは押さえましょう。ここの違いを理解することが、実は全てかもしれません。それほど重要なことだと、個人的には考えます。
  2. 【レストランとギャラリーの位置】
    この年は、レストランとギャラリーの計画が求められており、これらをどこに配置するかということが、全体の建物構成に大きく影響しました。標準解答例においては、2例とも東側の商店街に向けて配置されていますので、必然的に管理ゾーンは西側にいきます。一級建築士製図試験においては、建物周辺の状況を正確に把握し、建物をどちら側に開くのか、あるいは閉じるのかということが、空間構成上、かなり重要なウエイトを占めています。ヒントは、課題文に必ず書かれていますので、一言一句、正しく読み取りましょう。
  3. 【明快なゾーニングと動線計画】
    2.と連動しますが、住宅部門・デイサービス部門・共用部門・(管理部門)を明快にゾーニングし、分かりやすい動線とする必要があります。そういう意味で、極めて個人的な感想ですが、標準解答例の二つの例は、どちらも今一だと思います。標準解答例①においては、1階の住宅部門用EVホール内にエレベーターしかなく、利用者用の階段が別のところにありますが、やはり、ユニバーサルデザインの観点から考えても、利用者用のエレベーターと階段はセットで計画し、分かりやすい位置に設けるべきと考えます。一方、標準解答例②においては、住宅部門の利用者用エレベーターと階段がセットで計画はされているものの、その階段が、個人的にはびっくりの一般階段となっています。しかも、基準階を見ると、バリアフリーに適応した、もう一方の階段は、デイサービス部門との兼用になっています。標準解答例は、あくまでも「標準」であって、「模範」ではないということをよく耳にしますが、何か釈然としないものを感じます。普通は、もっと明快なゾーニングと動線にすべきと考えます。
  4. 【屋上庭園の存在】
    基準階の3階に屋上庭園の計画が要求されました。特に、屋上庭園への「日照」は求められていませんでしたので、北側に配置しても全く問題なかったと思われます。基準階には、各階に12戸の住戸(約30㎡/戸)が求められており、普通に考えれば、3.5m×8m=28㎡を南側に12戸並べれば終了です。7mスパンが横に6コマ並び、42mになるという極めてオーソドックスなX方向の構成となります。ただし、屋上庭園に日当たりを考えてしまうと、かなりやっかいになります。標準解答例①のような住戸の南側に屋上庭園がある状態となり、住戸のプライバシーを保つことが難しくなるからです。課題文で特に求められていないのであれば、個人の思い込みは極めて危険です。とにかく、課題文は、正確に、素直に読み取りましょう。
  5. 【基礎免震構造】
    標準解答例を見ると明らかですが、断面図の基礎部分に免震層があり、1階平面図には基礎と地盤との間にエキスパンションジョイントが表記されています。この年は、課題発表時に基礎免震構造のことが言及されており、この箇所の対策はバッチリだった受験生が多かったと思います。従いまして、ここでの合否の差は少なかったと思われますが、1階平面図において、免震層への点検用出入口等が要求されており、この「等」が意外とくせ者だったと思っています。どういうことかというと、ほとんどの受験生が点検用出入口とエキスパンションジョイントをセットで描いたと思うのですが、エキスパンションジョイントの表記は直接求められていませんでしたので、省略してしまった人も居ました。ですが、発表になった標準解答例では二例ともEXP.Jの表記がなされています。つまり、「等」に該当する箇所と思われ、表記がない場合は確実に減点されたことが伺え、ここでの減点差がランクⅠとⅡを分ける要因の一つにもなり得たと思っています。

以上、そこはかとなく書き連ねてみましたが、参考にして頂ければと思います。特に、上記の5.で書いたことは結構重要で、ランクⅢとⅣを回避することは、さほど難しいことではありませんが、ランクⅠとⅡの差は本当に僅差であり、それこそ、ちょっとした描(書)き損じが合否を分けていると考えています。この辺りのことは、今後に回したいと思います。