有効細長比の問題

次の鉄骨造に関する記述について、正誤を判定してみましょう。

『有効細長比λが小さい筋かい(λ=20程度)は、中程度の筋かい(λ=80程度)に比べて塑性変形性能が低い。』

初見だと、非常に難解な文章に感じると思います。
この記述を解くためには「有効細長(ほそなが)比」と「塑性変形性能」の2つのキーワードの意味を理解する必要がありますが、とりあえず、細長い材料は曲がりやすく、変形性能は低いということを頭に入れておきましょう。

例えば割り箸のような細長い材料はすぐに曲がりやすい(座屈しやすい)ですが、同じ長さの割り箸でも太い棒だとすると曲がりにくく(座屈しにくく)なります。

有効細長比は、大きいほど細長い材料であることを意味し、小さいほど太短い材料であることを意味します。つまり、上記の記述の中で、λ=20とλ=80を比べると、20の方が小さいので、太短い材料であることが分かります。

また、「塑性変形性能」とは簡単に言えば「靭性」のことであり、もっと簡単に言うと「粘り強さ」のことです。靭性を理解するのによくイメージされるのが、鋼製の細長いバネと太短いバネです。どちらが粘り強いバネかというと、太短いバネの方が強靭であることがイメージ出来ると思います。

ゆえに、鉄骨造の柱においても、太短い方が粘り強いということが分かります。

すなわち、有効細長比が小さい方が太短く、塑性変形性能(粘り強さ)は大きいということになり、冒頭の記述は誤りということになります。

一応、数式的な解説も載せておきます。

下記の公式を見ると分子が小さいほど、また分母が大きいほど、細長比λは小さくなることが分かります。つまり、分子が小さくなるということは、座屈長さが小さく(短く)なるということであり、分母が大きくなるということは、部材断面が大きくなるということを意味しています。すなわち、太短い材料ほど、細長比は小さくなり(→座屈しにくい)、細長い材料ほど、細長比は大きくなる(→座屈しやすい)ということが分かります。

 

示力図と連力図

今回は、トラスの図式解法を理解する上で、大事な基礎知識となる「示力図」と「連力図」について解説したいと思います。年を越してしまうと、こういう基礎的な事項を勉強する時間の確保が難しくなりますので、今のうちに復習しておくことをおススメします。

なお、極めて個人的な見解ですが、後々のことを考えて、トラスの解法においては、図式解法(節点法)と切断法(算式解法)の両方を理解しておいた方が良いと思われます。トラスの問題においては、一級でも二級でも、難易度に差はほとんどありません。

早速ですが、下の図1の合力(大きさ・方向・位置)を図式解法によって求めます。

まず、合力の大きさと方向を求めます。
下図のようにP1の終端とP2の始端を合せます。

そして、P1の始端とP2の終端を繋ぐと、合力Rの大きさ(矢印の長さ)と方向が求まります。

次に、この合力の作用する位置を求めるために、示力図なるものを描きます。

示力図とは上図のように、任意点Oを定め、点OとP1,P2の始端・終端とを①~③の極線で結んだものです。この示力図を参考にして、以下の手順で連力図を描いていきます。

(1)図1において、P1の任意点A上に示力図中の極線①を平行移動させます。

(2)同じく点A上に極線②を平行移動させ、P2の延長線との交点を点Bとします。

(3)点B上に極線③を平行移動させ、極線①との交点を点Cとします。

(4)この点Cが合力Rの作用線が通過する位置となります。ゆえに、図1における合力(大きさ・方向・位置)が求まったことになります。端的に言うと、点Cは示力図の極線①と極線③の交点となり、この交点を求めるために、一連の手順を踏んでいるということになります。

(5)ちなみに、連力図における補助線等を全て消去すると下図のようになります。

 

最後に、興味のある方は、下の問題を解いてみて下さい。

※問題図で言えば、示力図における極線①と極線④の交点を求めるために連力図を描くことになります。以上の考え方は、トラスの図式解法において、とても重要な基本事項となります。

 

崩壊荷重を求める問題

下記の問題は、崩壊荷重を求める問題としては、一般的な難易度の問題だと思います。左右の柱の長さが異なったラーメン構造となっていますので、それぞれの塑性ヒンジにおける回転角が違う値になることには注意が必要です。

塑性解析系の問題は一級建築士試験特有の出題範囲ですが、一度、解法の手順を覚えてしまえば、トラス等の問題と同様に得点源となり得る分野です!!

 

学科Ⅳ(構造)(1級過去問 H27)
問 図-1のような水平荷重Pを受けるラーメンにおいて、水平荷重Pを増大させたとき、そのラーメンは、図-2のような崩壊機構を示した。ラーメンの崩壊荷重Puの値を求めよ。ただし、柱、梁の全塑性モーメントの値は、それぞれ400kN・m、200kN・mとする。

 

(解答・解説)

上記の変形角度が微小のときの考え方は、頻出事項ですので、よく確認しておきましょう。

されど力学

少し変則的な箇所のせん断力の求め方について考えたいと思います。以下のような問題において、よく使うのが曲げモーメントとせん断力との関係です(詳しくはコチラ)。まあ、どの教科書にも載っていることですが、この関係性を使えるようになると、力学系の問題を解く上で、大きく理解力が深まります。

H27年一級過去問 学科Ⅳ(構造)からの出題

問 下図において、BC材のせん断力の大きさを求めよ。

 

(解答・解説)

※見返してみたら、上記のΣX=0の式は今回は不要でした。
よろしくお願い致します。

モールの定理

先日、卒業生より、モールの定理について質問を受けましたので、今一度、おさらいしておきたいと思います。通常、どこの学校でも一度は習う定理だと思いますが、建築士試験「対策」という観点から考えると、あまり必要としくなってしまうんで、まあ、それこそ「うろ覚え」状態であるのが、ごく自然なことと思われます。

すなわち、ごく一般的な単純ばりや片持ちばりで、荷重状態の違いによる「たわみ」と「たわみ角」は、普通は暗記して試験に臨むと思いますので、それらを、いちいちモールの定理を使って求めたりしません。

が、まれに、モーメント荷重とか、ちょっとイレギュラーな荷重が作用している場合など、暗記していなかった「たわみ」や「たわみ角」が問われることがあります。

そういう場合に、モールの定理を知っていると重宝します。ただし、仮に、モールの定理を必要とするような問題が出題されたときは、一番最後に解くようにしましょう。構造と施工の教科はセットになっていますが、何なら、施工が解き終わった後でもいいくらいです。

モールの定理の基本原則において、留意すべき大まかな流れとしては、次のようになります。

  1. まず、M図を描く。
  2. M図を反転させて、Mmaxを1/EI倍する。(→弾性荷重という)
  3. 弾性荷重が作用した状態で求めたせん断力が「たわみ角」であり、曲げモーメントが「たわみ」となります。

気を付けなければならないのは、上記は単純ばりの場合であり、片持ちばりの場合は、ⅱ.のときに固定端と自由端を逆転させます。

以下に、解法例を付記しますので、ご参照下さい。

くり返しになりますが、通常は上記の結果のみ暗記しておけば、それで試験対策としては十分です。勉強時間に余裕のあるときにでも、手順を確認してみて下さい。

今さらの力学の基本事項

建築士の本試験まであと1ヶ月ちょっとですが(1級も2級も)、今だからこその力学の基本事項をおさらいしたいと思います。

まずは、極めて基本的な単純ばりの反力の求め方についてです。
(今さら?という声が聞こえてきそうですが、しばしお付き合い下さい。)

下の図1のようなかたちのときは、いちいち力のつり合いによる反力計算はしなくていいです。

ポイントとして、A点よりB点のほうが荷重の作用するC点に近く、それだけ反発するための負担が大きいので、B点の反力のほうが大きくなります。

次に、M図についてですが、例えば下の図3において、C点における曲げモーメントの値は、C点よりも左側か右側のどちらか一方のモーメントの総和を計算すれば、それがすなわちC点における曲げモーメントの値を示しています。

なお、通常は図4のように、C点の左側と右側で符号が逆転します。図4のような状態で梁が曲げられるとき、梁は下に凸に変形するので、M図は図3のように描きます。

次にQ図ですが、例えば下図のように、A~C間にX1、C~B間にX2を設定し、それぞれの点から左側または右側で、材軸(AB軸)に垂直なの和を求めると、それがせん断力になります。

このとき、せん断力の符号は、あくまでも点X1とか点X2に対して、時計回りか反時計回りかで考えます。曲げモーメントの計算ではないので、誤って距離を掛けないように気をつけましょう。

以上が、基本事項となりますが、M図とQ図の間においては、微分積分の関係が成り立っています。それを平たく説明すると、以下のようになります。

つまり、例えばA~C区間で曲げモーメントが変化した分(6kN・m)を、その区間の距離3mで割ってやると、せん断力QA~Cが求まります。符号については、M図の勾配から求めることができます。

※以上、非常に稚拙なイラストで、誠に申し訳ございません。

 

組み合わせ応力度の問題 パート2

前回パート1からの続きです。
では、実際に問題を解いてみたいと思います。

H26年 一級建築士試験 学科Ⅳ(構造)の過去問です。

問 図-1のような底部で固定された矩形断面材の頂部の図心G点に鉛直荷重P及び水平荷重Qが作用するときの底部a-a断面における垂直応力度分布が、図-2に示されている。PとQとの組合わせとして、正しいものは、次のうちどれか。ただし、矩形断面材は等質等断面で、自重は考慮しないものとする。

 

※何かありましたら、ご一報下さい。

組み合わせ応力度の問題 パート1

H26年 一級建築士試験 学科Ⅳ(構造)からの出題です。

圧縮応力度と曲げ応力度との、いわゆる組み合わせ応力度の問題です。
よく目にする問題で、難易度としては、それほど難しくないと思います。

今回は、問題を解くのではなくて、この問題の意味について、少し深く考えてみたいと思います。

まず、下向きの鉛直方向の外力Pは、長期荷重を表しています。長期荷重とは、建築物に常時作用している荷重のことで、固定荷重や積載荷重などのことです。
一方、右向きの水平方向の外力Qは、短期荷重を表しており、臨時(非常時)の荷重、すなわち地震力や風圧力(台風など)のことです。

つまり、何事もない平和なときの建物には、鉛直方向の下向きの荷重のみが作用し、地震や台風などが発生した場合において、水平方向の力が作用することになります。

従いまして、上記の図-1の状況は、常時荷重に非常時荷重が組み合わさった状態ということが分かります(普通に考えれば、地震時ということになります)。

ここで、図-2の意味について考えてみたいと思います。

もしも、鉛直荷重Pのみが作用している状態であれば、a-a断面における応力度分布は、全て圧縮となります。

また、水平荷重Qのみが作用している状態であれば、中立軸を境に応力度分布は次のようになります。

以上のことより、応力度分布を組み合わせて考えてみます。

上図において、①のルートは圧縮と圧縮を足して2σという圧縮応力度になっていることが分かります。一方、②のルートでは圧縮と引張を足しているので、右側の2σよりは小さい値のσとなっています。つまり、転倒させようとする力よりも上から押さえつける力の方が大きいので、a-a断面の全面に圧縮応力度が作用していることが分かります。

また、逆に、上から押さえつける力が弱ければ、建物は転倒(回転)しようとしますので、応力度分布は次のようになります。

以上の事項を念頭におくことによって、ただ機械的に解くよりも、組み合わせ応力度の問題が楽しくなるはずです。

次回は、本問を実際に解いてみたいと思います。
(結局、機械的に解くことになりますが。)

 

応力度について

卒業生のみなさんから、よく質問される応力度について、少しまとめてみたいと思います。今後の勉強の参考になれば幸いです。
まず、応力とは、部材の内部に働く力、すなわち内力のことであり、次のように4つ挙げられます。

①曲げモーメント(外力のときは、単に「モーメント」と記します。)
②せん断力
③軸方向力(圧縮)
④軸方向力(引張)

応力度とは、部材断面に分布している各応力のことです。とりあえず、難しい話は抜きにして、言葉の定義を考えてみたいと思います。
つまり、応力の種類が4つあったのに対応して、応力度も次のように4つ挙げられます(ちょっと、英語はあやしいですが…)。

①曲げ応力度(記号:σb)→ bending stress
②せん断応力度(記号:σs)→ shearing stress
③圧縮応力度(記号:σc)→ compressive stress
④引張応力度(記号:σt)→ tensile stress

ここで、例えば、σbの意味についてですが、σ(シグマ)が応力度を表し、bが曲げ(bending)を表していますので、すなわち、σb → 曲げ応力度となります。
あと、それぞれの応力度には、建築基準法で決められた許容値があり、その値のことを許容応力度といい、記号はfで表します。例えば、許容曲げ応力度は、fbとなります。

それから、重要なのが単位です!
単位は、いずれの応力度も単位面積当たりの力(N/cm2など)で表されます!!

以上のことを、公式と共にまとめると下記のようになります。ディメンションチェックも記しまたので、確認してみてください。