エスキスについてのあれこれ

改めて、今年の一級建築士製図試験課題の検証を行っています。今さらですが、まだ「基準階」と決まった訳ではありません。前にも書きましたが、2階建の可能性もゼロではないと思っています。が、とりあえず、基準階を勉強しておくことに越したことはありません。そういう意味で、H23年とH27年の過去問を研究しておくことは、極めて効果的であると考えています。

「基準階」のエスキスに限れば、低層階よりも格段に容易です。二級建築士製図試験において、木造2階建の場合は2階からエスキスを考える方法がありますが、それと同じことで、上層階の方が部屋数が圧倒的に少ないので、プランニングが容易となるのです。

そこで、今回は「基準階」のみに限ったエスキスパターンを考えてみたいと思います(とは言っても、普通に考えれば、誰でも思いつくパターンですが)。

極めて簡単に「基準階」は、次の2つのパターンにまとめることができます。

①片廊下型(もしくは中廊下型)
②ツインコリドール型

過去問の標準解答例で言えば、H23年が②で、H27年が①でした。

どちらのパターンを採用するかの一つの目安は、居室の大きさと数です。居室をとりあえず横に並べてみて、収まりそうであれば①のタイプであり、収まらなければ②のタイプと考えて、ほぼ間違いないと思われます。ここでは、あまり悩む必要はありません。他にもL字型やボイド型など、考えられるパターンは幾つかありますが、最初から積極的に考える型ではありません。あくまでも、低層階との兼ね合いで、極まれに考えなければならないことがあるかもしれないという認識でいいと思います。

純粋な基準階タイプではありませんが、H29年の「リゾートホテル」の客室構成も参考になると思いますので、一度は見ておくべきです。

いずれにしても、基準階が決まるとコアの位置が、ほぼ決まります。コアの位置さえ決まれば、あとは何とかして低層階をまとめるだけです。

どうしても、低層階においてコアの納まりが悪い場合は、基準階を修正することになりますが、一からやり直すのではなくて、前の検討を活かした修正となるようにしましょう。この辺りの感覚は、いろいろな課題をある程度こなしていかないと身に付いてこない部分ではありますが、ポイントとしては、「必ず前段階の検討を踏襲する」ということです。

よく卒業生から、どうしたらエスキスが上手くなるかという質問をされるのですが、そういう人たちのエスキスを見せてもらうと、大体同じです。すなわち、いきなり1/400のプランニングのみだったり、建築可能範囲の検討がなかったり、チビコマによるゾーニングの検討がなかったり、等々です。

個人的に一番問題視しているのは、ぱっと見は上手くエスキス出来ていそうで、よく見ると「はちゃめちゃ」な検討をしている場合です。どういうことかと言うと、1/400のプランニングをするためには、その前段階の倍コマが絶対に必要であり、倍コマの前にチビコマの検討が必要であり、その前にボリューム検討や建築可能範囲の検討が必要なのですが、それぞれの検討が連動していない状態というか、せっかくチビコマでゾーニングは上手くいってそうなのに、次の倍コマで、全く関係のない室配置をしてしまっているという状態です。

偉そうなことを言ってますが、自分も、ここを理解し、出来るようになるのに長い年月を要しました。しかし、順序立てて、慌てず、ちゃんと「前段階の検討を踏襲する」という意識さえ持ってエスキスすれば、意外とすぐにコツを掴めるような気がしています。

まだまだ暑い夏は続きそうですが、健康管理には十分に気をつけて頑張って頂ければと思います。

過去問研究のススメ②

前回に引き続き、H27年の過去問を考察したいと思います。

H27年の課題は「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅」でした。

この年のポイントを以下に列挙します。

  1. 【建物用途の理解】
    本来の建物用途は高齢者向けの「集合住宅」であり、低層階に、地域住民と集合住宅の居住者が使用できるデイサービスがあるという構成を、正確にイメージすることが大切だったと思います。つまり、デイサービスのみの利用者が、集合住宅がある基準階にも簡単に行けてしまう動線計画は、基本的にNGだったと思われます。この辺りは、H23年とは明確に違う部分です。ここの違いを、まずは押さえましょう。ここの違いを理解することが、実は全てかもしれません。それほど重要なことだと、個人的には考えます。
  2. 【レストランとギャラリーの位置】
    この年は、レストランとギャラリーの計画が求められており、これらをどこに配置するかということが、全体の建物構成に大きく影響しました。標準解答例においては、2例とも東側の商店街に向けて配置されていますので、必然的に管理ゾーンは西側にいきます。一級建築士製図試験においては、建物周辺の状況を正確に把握し、建物をどちら側に開くのか、あるいは閉じるのかということが、空間構成上、かなり重要なウエイトを占めています。ヒントは、課題文に必ず書かれていますので、一言一句、正しく読み取りましょう。
  3. 【明快なゾーニングと動線計画】
    2.と連動しますが、住宅部門・デイサービス部門・共用部門・(管理部門)を明快にゾーニングし、分かりやすい動線とする必要があります。そういう意味で、極めて個人的な感想ですが、標準解答例の二つの例は、どちらも今一だと思います。標準解答例①においては、1階の住宅部門用EVホール内にエレベーターしかなく、利用者用の階段が別のところにありますが、やはり、ユニバーサルデザインの観点から考えても、利用者用のエレベーターと階段はセットで計画し、分かりやすい位置に設けるべきと考えます。一方、標準解答例②においては、住宅部門の利用者用エレベーターと階段がセットで計画はされているものの、その階段が、個人的にはびっくりの一般階段となっています。しかも、基準階を見ると、バリアフリーに適応した、もう一方の階段は、デイサービス部門との兼用になっています。標準解答例は、あくまでも「標準」であって、「模範」ではないということをよく耳にしますが、何か釈然としないものを感じます。普通は、もっと明快なゾーニングと動線にすべきと考えます。
  4. 【屋上庭園の存在】
    基準階の3階に屋上庭園の計画が要求されました。特に、屋上庭園への「日照」は求められていませんでしたので、北側に配置しても全く問題なかったと思われます。基準階には、各階に12戸の住戸(約30㎡/戸)が求められており、普通に考えれば、3.5m×8m=28㎡を南側に12戸並べれば終了です。7mスパンが横に6コマ並び、42mになるという極めてオーソドックスなX方向の構成となります。ただし、屋上庭園に日当たりを考えてしまうと、かなりやっかいになります。標準解答例①のような住戸の南側に屋上庭園がある状態となり、住戸のプライバシーを保つことが難しくなるからです。課題文で特に求められていないのであれば、個人の思い込みは極めて危険です。とにかく、課題文は、正確に、素直に読み取りましょう。
  5. 【基礎免震構造】
    標準解答例を見ると明らかですが、断面図の基礎部分に免震層があり、1階平面図には基礎と地盤との間にエキスパンションジョイントが表記されています。この年は、課題発表時に基礎免震構造のことが言及されており、この箇所の対策はバッチリだった受験生が多かったと思います。従いまして、ここでの合否の差は少なかったと思われますが、1階平面図において、免震層への点検用出入口等が要求されており、この「等」が意外とくせ者だったと思っています。どういうことかというと、ほとんどの受験生が点検用出入口とエキスパンションジョイントをセットで描いたと思うのですが、エキスパンションジョイントの表記は直接求められていませんでしたので、省略してしまった人も居ました。ですが、発表になった標準解答例では二例ともEXP.Jの表記がなされています。つまり、「等」に該当する箇所と思われ、表記がない場合は確実に減点されたことが伺え、ここでの減点差がランクⅠとⅡを分ける要因の一つにもなり得たと思っています。

以上、そこはかとなく書き連ねてみましたが、参考にして頂ければと思います。特に、上記の5.で書いたことは結構重要で、ランクⅢとⅣを回避することは、さほど難しいことではありませんが、ランクⅠとⅡの差は本当に僅差であり、それこそ、ちょっとした描(書)き損じが合否を分けていると考えています。この辺りのことは、今後に回したいと思います。

過去問研究のススメ①

一級建築士製図試験の学習において、時間を持て余すというか、何をしたらいいか分からなくなる時があると思います。そういう時のオススメは、過去問研究です。今年の課題の参考になるのは、H23年とH27年です。H11年も該当しますが、旧試験制度のものですし、入手は難しいかもしれません。

各年度の課題文を読むことも、めちゃくちゃ大事なことです。正確に課題文を読み取った上で、標準解答例を眺めてみて下さい。

H23年は「介護老人保健施設」でした。この年のポイントとして、個人的には大きく3つ挙げられると思っています。

一つ目は、接道条件です。普通に考えれば、西側道路からのメインアプローチを設け、東側道路には通用口を計画することになると思います。さらに、「車寄せ」が要求されていますので、ロータリー形式を取り入れた駐車スペースの採用が一般的であると思われます。この辺りの計画性の良否が、まずは重要なポイントだったと考えています。

二つ目は、厨房から食堂までの動線計画です。ここを軽視したプランは、極めて合格しにくかった年だったと記憶しています。

三つ目は、食堂・デイルームの設置階です。食堂・デイルーム、機能訓練室、厨房の階指定は、1階又は2階となっており、これらの設置階をどのように考えるかが、二つ目の動線計画と連動して大きなキモでした。ちなみに、JAEICの標準解答例によると、二例とも厨房が1階で、食堂・デイルーム及び機能訓練室が2階になっています。

以上、他にも色々ありますが、まずは上記のポイントがクリアされていれば、合格しやすかった年だったんじゃないかと、個人的には考えています。

あと、今年の課題において、卒業生から質問が多いのがゾーニングについてです。まあ、今年の課題に限った話ではありませんが、特に今年のような課題におけるゾーニングは考え辛い箇所があるかもしれません。

H23年の標準解答例によると、利用者ゾーンと管理者ゾーンが、それほど明確には仕切られていないことが分かります。管理ゾーン内に職員更衣室が設置されている2階においては、明確な「仕切り」が存在しますが、1階と3階においては、曖昧な「仕切り」となっています。これは、常にボランティア・スタッフ等が施設内を巡視している状態であり、即時の対応を必要とする療養・医療系の施設であることに大きく起因していると思われます。

また、多機能便所の数についての質問も多いです。基準階以外の階には、原則、多機能便所2箇所以上+一般便所のセットで考えた方が無難です。ただし、要介護者だけが使用する諸室しかないような場合は、多機能便所のみの複数設置でもいいと思います。こういう所こそ、過去問研究してみて下さい。

次回は、H27年の過去問について考察したいと思います。

緩やかなゾーニング

一級建築士製図試験において、ゾーニングの概念が分かってくると、エスキスが加速度的に上手くなります。簡単そうで、簡単にはいかないのがゾーニングです。理解してしまえば、どうってことはないことなんですけどね。

通常の建築物において、最もちゃんとゾーニングされていなければならない箇所は、共用ゾーンと管理ゾーンです。

頭では分かっているつもりでも、いざエスキスしてみると、管理ゾーンの中に共用ゾーンがあったり、共用ゾーンの中に管理ゾーンがあったりしてしまいます。

卒業生の過去のエスキスを見ていると、例えば管理ゾーンの中に多目的便所があったり、共用ゾーンの中に職員用更衣室があったりします。もちろん、課題文でそのように要求されているのであれば別ですが、建築常識・一般常識として、多目的便所は利用者が使うものであり、共用ゾーン内にあるべきですし、職員用更衣室は共用ゾーンを経ることなく、管理ゾーン内にあるべきです。

ただし、今年の課題「高齢者介護施設」においては、それらのゾーンの区分けが曖昧なグレーゾーンが多く存在します。特に基準階タイプにおいて、その傾向は顕著です。介護を必要とされる方を、とっさに助けなければならない事態を考えると、「緩やかなゾーニング」にすべき箇所が出てきますが、この辺りの空間構成的な考え方が、特に初受験生にとっては分かり辛いかもしれません。

結局は、課題文にヒントが隠されていることが多いのですが、ゾーニングに迷ったときは、利用者と管理者、双方の立場になって考えてみるといいと思います。あと、先日書いたチビコマゾーニングを軽視せず、いくつかのパターンを考えてみるということと、チビコマゾーニングを活かした倍コマにすることを、必ず守って下さい。せっかく、チビコマでゾーニングしたのに、倍コマで全く関係のない室配置になってしまっていることが多々ありますので要注意です!

最後に、H23年やH27年の過去問集は市販もされていますので、共用と管理に絞って、ゾーニングを眺めてみることをおススメします。

一級建築士製図試験における基本的な留意事項(エスキス計画編)

特に初受験の方に見て頂きたい、一級建築士製図試験において留意すべき幾つかの基本事項(エスキス計画編)を列挙してみたいと思います(一部、構造的な事項含みます)。

  1. 居室に、日当たり・日照等が求められていなければ、必ずしも南面に向ける必要はない。
  2. 2面接道以上の場合、最も幅員が広く、かつ、歩道付きの道路側にメインアプローチを設ける。
  3. 廊下幅について、利用者用は2.5m以上、管理者用は2m以上を確保する。
  4. レストランの厨房は管理ゾーンとの動線を考慮すべきだが、喫茶店の場合はその限りでない。
  5. スラブのはね出しは、できれば2.5mまでとする。
  6. 岡立ち柱は、原則、禁止。
  7. ここ数年の傾向として、通行の用途以外の目的で設けたピロティは床面積に算入。
  8. 延焼ラインは、敷地にかかるときのみ記入する。防火上有効な公園がある側や、道路幅員が大きく敷地にかからない場合など、そもそも必要としない場合は記入しない。
  9. 隣地からの空きは最低2mを確保(避難用の敷地内通路として、内法1.5m確保するため)。
  10. 2方向避難のために設けた2つの階段は、廊下で繋がっている必要がある。

まだまだあると思いますが、今後思いついたら、その都度更新していきます。また、設備や構造に特化した留意事項も取り上げていく予定です。

一級建築士製図試験に挑戦される方々にとって、少しでもお役に立てればと考えています。ちょっとした休憩時間にでも、当サイトを眺めて頂ければと思っています。

遠回りに見えるけど

いろんなエスキスの仕方はあると思いますが、極めて個人的な見解では、少なくともイキナリ1/400でのプランニングは出来ないというか、やめたほうがいいと思います。まあ、様々な考え方があるので、一概には言えませんが、種々の与条件をクリアするためには、一見、遠回りに見えるかもしれませんが、ある程度の手順は踏むべきと考えます。

専門学校の対策講座で、以前指導していたエスキスにおける、絶対に検討すべき項目を以下に列挙します。

  1. 敷地のヘリアキ
  2. 建築面積のMAX・床面積の範囲
  3. プログラム図
  4. 各階のボリューム振り分け
  5. チビコマ
  6. 倍コマ
  7. 面積チェック・エスキスチェック1
  8. 1/400プランニング
  9. ラフ断面図
  10. 最終の面積計算
  11. エスキスチェック2

以上、課題文の読み取りを含めて2.5時間以内での完了を目指しますが、途中2回のエスキスチェックも含めて2.5時間ということです。多少の項目の増減や手順前後はあるにせよ、上記の項目は、かなりスタンダードなものだと思います(チビコマとか倍コマという用語はウラ指導さんからの引用です)。

特に1.は意外と軽視されがちですが、自分は、いの一番に検討すべき項目だと考えています。敷地全体から、駐車・駐輪スペースや地上に設ける広場などのヘリアキを除いた部分が、建物を建築することのできる範囲となります。実はこの検討項目は、足切りが設定されている空間構成の一つともなっています。また、この項目の検討により、大まかなスパン割のヒントにもなり得ます。

3.のプログラム図というのは、初受験の方にとっては聞きなれない言葉だと思いますが、例えば隣接が条件となっている室同士などをフローチャート的な模式図で表したものです。個人的には、あまり詳細なものは描かなくていいと思っています。本当に重要と思える箇所のみを表すことで時間短縮となります。

あとは、エスキスチェックが、なんと言っても重要です。室の抜けはもちろん、与条件の抜けなど、課題文と照らし合わせて細かく確認します。このチェックする時間の確保が合否に直結すると言っても過言ではありません。

まだ、今年の一級の製図試験の戦いは、始まったばかりです。
一歩一歩、着実に進んでいきましょう!