学科試験の勉強の仕方(一例)

今一度、初受験における建築士学科試験の勉強の仕方をお伝えしておきます。(以下に示すのは、あくまでも個人的な勉強の仕方ですが、是非参考にしてみて下さい。)

まずは、市販のもので構いませんので、過去問が10年分くらい載っている問題集を準備します。資格学校に通われる場合は、資格学校の問題集を使って下さい。

基本的に、最低3周を目指し、可能であれば10周を目指します。

【1周目】
キーワードは、とにかくザックリです。
建築士試験の全容を知ることが一番の目的です。
細かいことは気にしなくていいです。一級建築士の学科試験であれば、計画,環境・設備,法規,構造,施工の5科目の出題内容を知ることが目的となります。

そのために、まずは解答・解説を見てしまいます。それから、問題を解いて下さい。その際、解答番号は必ずノートに書き留め、問題集には直接書き込まないようにします。気になるキーワードなどもノートにメモして下さい。

いきなり問題を解き始めてしまうと、問題が難しすぎる場合、そこで勉強するのが嫌になってしまいます。これを防ぐために、まず、解答・解説を読みます。こうすることで、初見の難問に対する抵抗感がかなり薄まります。

そして、1周目は、とにかくザックリです。

全ての問題及び解答・解説をテキトーに流し読みして下さい。とにかく、問題集一冊にまるまる目を通すことに主眼を置きます。

10年分の過去問であれば、1日1年とすれば10日で終わります。どんなに時間をかけたとしても、3週間あれば終わるはずです。

一日の最低目標学習時間は3時間以上です。

【2周目】
一転して、とにかく一問一問時間をかけ、じっくり解いていきます。普通に問題を解いて、その後に解答・解説を見ますが、分からなければ、すぐに答えを見ましょう。気になったり、分からない用語・フレーズは、解説をじっくり読んだり、ネットで調べたりして、一問一問、納得しながら進めて下さい。

2周目が、一番キツいです。

ここを、いかに乗り越えるかにかかっています。

環境・設備や力学の計算問題を始め、法規なども、じっくり勉強していきます。10年分の過去問であれば、3ヶ月~4ヶ月くらい必要かもしれません。

ここでも、とにかく問題集自体は真っさらな状態を維持し、気になることは全てノートに書き込んでいきます。

2周目が終わったとき、この時点で70%以上の合格レベルに達しているはずです。

【3周目】
本試験さながらに、時間計測をしながら、何も見ずにガチで解いて下さい。

択一問題の一枝一枝を正確に読み取っていくことを忘れないで下さい。

計画、環境・設備、法規、構造、施工のそれぞれ5教科を解き終わった後で採点し、間違った問題のみ、詳しく見直します。

ここで間違ってしまう問題は、恐らく苦手とする箇所ですので、重点的に復習する必要があります。何故間違ってしまったのか、何故苦手だと思うのか、そういう感想もノートに書いておいてもいいかもしれません。

【4周目以降】
あとは、ひたすら3周目のくり返しです。
常に問題集を真っさらな状態にしておくことで、何度でも解き直すことが可能です。注意点としては、くり返し過去問を解いていくと、正しい選択枝を読み飛ばすようになってしまうので、そこは意識して、ちゃんと読むようにして下さい。

以上、10周くり返せば、ほぼ合格できるはずです。

10年分の過去問で不安がある場合は、本サイトに合格ロケット(旧合格物語)へのリンクがありますので、参考にしてみて下さい。

また、資格学校に通われる場合は、そこでのカリキュラムを遂行しつつ、とにかく、くり返し学習するということを意識して勉強してみて下さい。

一つ言えることは、独学だろうが、資格学校に通おうが、自分自身が勉強しなければ受からないということです(極めて当たり前のことですが)。全ては誰のためでもなく、自分のためです。

苦しいときもあるとは思いますが、来年7月の学科試験の合格を目指し、全力で頑張って頂ければと思います。

私も、全力で応援します!

戦いを終えて

今年の一級建築士製図試験が終わりました。

受験されたみなさん、本当にお疲れ様でした。

もう、今日から仕事という人が圧倒的に多かったと思いますが、まずは、心を休めて下さい。身体的な疲労も、もちろんあると思いますが、精神の休息を一番に考えて下さい。

夜も眠れぬ程の悔しい思いもあるかもしれません。

一級建築士製図試験に5度失敗した経験を持つ私は、そういう気持ちが自分のことのように痛いほど分かります。

しかし、

どんなにやらかしたと思っても、本当にマジで、合格発表のその瞬間まで、受験生全員に、可能性は等しく有ります。

ここから合格発表までの2ヶ月間こそが、ある意味、本当の試練かもしれません。なかなか気持ちを切り替えることは難しいかもしれませんが、試験に関するネット検索は厳禁として下さい。どうせ、結果は誰にも分かりません。できるだけ試験のことは考えないようにして、試験に関する情報はシャットアウトし、何事も無かったかのような日常を過ごした方が、精神衛生上、はるかに健康的です。

戦いを終えられた受験生のみなさんが、これから合格発表までの2ヶ月間を、心穏やかに過ごせますよう、切に願っております。

チャンスを掴め!

『チャンスは、準備された心に降り立つ』
(ハイキュー242話より)

元々は細菌学者のパスツールという人の言葉のようですが、なかなかに奥の深い言葉だと思います。

そもそもチャンス自体が、準備された心にのみ来るのであって、来たとしても、それはあくまでもチャンスであって、それを活かせるかどうかは自分次第であり、準備された心を持っていなければ、チャンスすら来ない。

今年、一級建築士製図試験に挑むみなさんへ。

ここまで本気で頑張ってきたのであれば、もう、チャンスは目の前に転がっています。

あとは掴むだけです!!

今の時期の過ごし方

いろんなところで言われていると思いますが、今の時期、がっつりエスキスすることは厳禁です。

なぜなら、本試験で、そのプランが残像として残り、引っ張られてしまうからです。自分も、これで過去に痛い目に遭いました。

本試験で一番恐いのは、過去の課題に引っ張られて、本試験課題の要求とは違うプランとなってしまうことです。

一生懸命に勉強してきた人ほど、陥りやすい罠です。

マジで気を付けて下さい。

本番3日前くらいからは、とにかく頭の中をフラットにすることに集中して下さい。今さらジタバタしても仕方ありません。

今の時期は、コーヒーでも飲みながら、今年の練習課題を整理したり、今までにやらかした項目を振り返ったりしていた方が、余程、効果的です。

ただし、記述は、毎日しっかり学習して下さい。
記述の学習は、嘘をつきません。

あと、作図も2枚程度は行った方がいいと思います。
これも、あまりがっつり描く必要はありません。
少し、描きたい欲求を残しておいた方がいいです。

とにかく、体調管理に気を付けて、十分な睡眠をとりましょう!

今一のプラン

今年の課題は、高齢者介護施設ですが、自分が把握している限りにおいては、過去に同じようなテーマで、3回出題されています(H11年・23年・27年)。

今年で、4回目となります。

さすがに、何かやってきそうな気がします。
あくまでも、極めて個人的な見解ですが、今年の二級のお題が「シェアハウス」でしたので、一級も、それに近いテーマということで、ユニットケア型があやしいと考えています。

あと、今年の課題においては、屋上庭園との相性がいいので、恐らく要求されるのではないかと思います。さらに、吹抜けも出題されるでしょうね。反面、天井高の高い大空間はないように思います。

洗濯室・リネン室・汚物処理室・多機能便所は必須です。各階への設置が要求される場合もありますので要注意です。

閑話休題

過去の卒業生のプランを見ていて思うことは、合格者のプランは、はっきり言って、今一(いまいち)だということです。室形状が歪で、便所の位置がおかしかったり、構造もあやしかったりします。自分自身の合格プランを思い出してみても、よくあのプランで受かったものだと不思議に思うくらいです。

合格のポイントは、とにかく、図面を、一切のミスもなく、完璧に描き上げるということです。ただし、課題文の要求には出来るだけ応える必要があります。

ここに気付けるかです。

課題文の要求には100%応えた上での今一のプランとは、例えば、厨房とデイルームとを「隣接」させる要求があった場合、「隣接」は死守しなければなりませんが、厨房のかたちは細長かったり、L字だったりしてもよく、正形には必要以上に拘らなくていいということです。この場合、デイルームにも同じ事が言えます。

完全に個人的な経験則ですが、
今一のプランを、完璧に作図すれば合格できます。

合格しやすい人

引き続き、今年の課題についての検証を行っています。

残り2週間半となりました。
一級建築士製図試験の初受験の方にとっては、あまりにも覚えるべきことが多く、本当に大変だと思います。特にエスキスについては、個人では、なかなか実力が付いていることを実感出来ずに、焦りを覚える時期かもしれません。

ですが、もしも、ここまで全力で勉強してきた自負があるのであれば、全く焦る必要はありません。ネット講座や各資格学校の講師の方々の共通の認識だと思いますが、製図試験の実力は、最後、急激に伸びます。

学科試験であれば、勉強したことが比較的すぐに効果として表われるのですが、製図試験の勉強の効果は、必ず遅れて出て来ます。

従いまして、毎日コツコツと努力に努力を重ねて来たのであれば、最後、絶対に効果として表われるはずですので、何とか諦めずに頑張って下さい。

練習課題における成績が全く上がらず、「ちょっと今年は厳しいかもな」と思われた受験生が、最後の最後で急激に実力を開花させて、見事に本試験で合格をつかみ取る様を、過去に幾度となく見て来ました。

明らかに、合格しやすいタイプの人がいます。

極めて個人的な見解を以下に述べます。

(合格しやすい人)

  1. 素直
  2. 努力家
  3. とりあえずプライドを捨てている
  4. とにかく質問する
  5. やるべきことをやる

正直なところ、一番大事なのは、3.だと思っています。
「合格しにくい人」は、何て言うか、自分もこういう時期があったんで分かりますが、質問することが「かっこ悪い」と考えていたり、「間違って恥をかくことを恐れて」いるふしがあります。合格するためには、なりふり構ってはいられないはずです。まずは、そこに気付かなければなりません。とにかく、課題を解いて、添削してもらって、修正して、復習して、また新しい課題を解いて、添削してもらって、修正して、復習して…、の繰り返しです!

とにかく、自力で解いた課題を提出して、添削してもらわないことには、実力は絶対に身に付きません!

以上、上記5項目全てに当てはまる場合は、99%の確率で、今年、合格すると思います。

一級建築士製図試験について思うこと

改めて、今年の一級建築士製図試験の課題について検証していますが、今年って基準階なんすかね?

3階建はもちろん、4階建も可能性としては残る課題発表のされ方ですよね。

あるいは2階建とか?

いずれにしても、個人的に思うことは(ウラ指導で習ったことですが)、建築可能範囲の検討やプログラム図の検討が終わって、各階のボリュームバランスのチェックの後、個室や住戸がある階からチビコマ・倍コマを考え始めることに、変わりはないということです。

住戸の数と各室面積によって、X方向・Y方向それぞれのスパンがほぼ決まります。あと、コアの位置も、ある程度決まることが大きいですね。低層階でのプランニングを考える際、コアの位置の目星が付いている事態は、相当デカいことです。

話は変わりますが、今の時期、ほとんどの受験生のみなさんは、エスキスメインの学習をしていると思います。それで、間違いはありません。間違いはないのですが、エスキスができるようになったからと言って、合格できるわけではないところが、この試験の難しいところです。

自分は、そのことに心から気付くのに、長い年月を要しました。

すなわち、描き損じなく完成させるということです。

まあ、当然のことです。

しかし、意外にも、ここを軽視している受験生は多いと思われます。

極論を言えば、プランなんて今一どころか今二でもいいくらいです。

よく、便所が南側に配置されることを必要以上に気にされる方がいますが、ぶっちゃけ、どうでもいいです。もちろん課題文にもよりますが、基本的に、住宅ではないので、課題ごとの周辺環境を第一に考えましょう。その結果、便所を南側に配置することがNGなのであれば、それに従って下さい。OKなのであれば、配置して下さい。ただ、それだけです。そこそこのプランを、よりよくする必要はないのです。

そこそこのプランを如何に描き損じなく、完璧に描き上げるかということが、最終的に、最も大切なこととなります。

室名の抜けや面積の記入ミス等々、たった一文字のミスや線一本の記入ミスで、落ちる試験なのです。逆に言うと、一切の描きミスがない図面は、減点のしようがありません。そこそこのプランでいいのです。つまり、とりあえずクライアントの要求に応えた叩き台としての図面でいいということです。

叩き台としての図面を、一切の描き損じなく仕上げることができれば、合格です(あと、記述も、個人的には、そこそこでいいと思っています)。

建築物の配置計画の重要性

何か前にも同じようなことを書いたような気がしますが、建築可能範囲の検討をすることは、本当に重要です。いろんなエスキスの仕方(手順)はあると思いますが、個人的には一番最初に建築可能範囲を考えます。

建築可能範囲を検討することで、スパン割のヒントになることが多々あります。H23年やH27年の過去問を重点的に、その他の年度の標準解答例における敷地と建築物との関係を調べてみることも、エスキスが上手くなる上でお勧めです。

極めて個人的な経験則ですが、エスキスが上手くなるきっかけは、実は、この建築可能範囲の計画の重要性を、ちゃんと意識することなのではないかと思っています。エスキスが上手く行かず、悩んでいたかつての自分を振り返ってみると、一応、手順を踏んで、表面上はエスキスをしているように見えても、本当の意味で中身を全く理解していませんでした。

何のために行っている検討なのか、次に何をすべきなのか、何を検討しなければならないのか、全く分かっていなかったと思っています。

しかし、ふとしたことをきっかけに、建築可能範囲って、めちゃくちゃ重要なのではないかと思うようになり、その時から、ようやく「意識して」検討するようになったと記憶しています。

ここから、芋づる式にエスキスの全貌が見え始めたというか、チビコマや倍コマで行う検討が、何のために行っていて、どういうふうに繋がっているのかということが分かりました。

つまり、覚醒したんだと思います。

この覚醒という感覚が、どういうものなのか、卒業生からよく聞かれるのですが、なかなか上手く説明できないでいます。

簡単に言うと、チビコマゾーニングと倍コマが連動しているということを理解し、これらの過程を双方に自由に行き来でき、その上で、どんな課題だとしても、それなりに1/400のプランニングを完成させられるという感覚です(あまり簡単じゃないですね)。

個人的に、その覚醒の感覚を掴むきっかけが、建築可能範囲の重要性を心から意識して行うことだと考えています。意外と初めのうちは、ここを軽視しがちです。敷地よりも、平面の計画に心が行ってしまいます。

しかし、結局、建築可能範囲を検討していないと、後で、駐車・駐輪スペースが確保できないことが発覚したり、一番恐ろしい建築面積オーバーとなったりしてしまいます。

やっぱり、一番にすべきは、建築物の配置計画、すなわち、建築可能範囲の検討だと、自分は思います。

参考にして頂ければと思います。

エスキスについてのあれこれ

改めて、今年の一級建築士製図試験課題の検証を行っています。今さらですが、まだ「基準階」と決まった訳ではありません。前にも書きましたが、2階建の可能性もゼロではないと思っています。が、とりあえず、基準階を勉強しておくことに越したことはありません。そういう意味で、H23年とH27年の過去問を研究しておくことは、極めて効果的であると考えています。

「基準階」のエスキスに限れば、低層階よりも格段に容易です。二級建築士製図試験において、木造2階建の場合は2階からエスキスを考える方法がありますが、それと同じことで、上層階の方が部屋数が圧倒的に少ないので、プランニングが容易となるのです。

そこで、今回は「基準階」のみに限ったエスキスパターンを考えてみたいと思います(とは言っても、普通に考えれば、誰でも思いつくパターンですが)。

極めて簡単に「基準階」は、次の2つのパターンにまとめることができます。

①片廊下型(もしくは中廊下型)
②ツインコリドール型

過去問の標準解答例で言えば、H23年が②で、H27年が①でした。

どちらのパターンを採用するかの一つの目安は、居室の大きさと数です。居室をとりあえず横に並べてみて、収まりそうであれば①のタイプであり、収まらなければ②のタイプと考えて、ほぼ間違いないと思われます。ここでは、あまり悩む必要はありません。他にもL字型やボイド型など、考えられるパターンは幾つかありますが、最初から積極的に考える型ではありません。あくまでも、低層階との兼ね合いで、極まれに考えなければならないことがあるかもしれないという認識でいいと思います。

純粋な基準階タイプではありませんが、H29年の「リゾートホテル」の客室構成も参考になると思いますので、一度は見ておくべきです。

いずれにしても、基準階が決まるとコアの位置が、ほぼ決まります。コアの位置さえ決まれば、あとは何とかして低層階をまとめるだけです。

どうしても、低層階においてコアの納まりが悪い場合は、基準階を修正することになりますが、一からやり直すのではなくて、前の検討を活かした修正となるようにしましょう。この辺りの感覚は、いろいろな課題をある程度こなしていかないと身に付いてこない部分ではありますが、ポイントとしては、「必ず前段階の検討を踏襲する」ということです。

よく卒業生から、どうしたらエスキスが上手くなるかという質問をされるのですが、そういう人たちのエスキスを見せてもらうと、大体同じです。すなわち、いきなり1/400のプランニングのみだったり、建築可能範囲の検討がなかったり、チビコマによるゾーニングの検討がなかったり、等々です。

個人的に一番問題視しているのは、ぱっと見は上手くエスキス出来ていそうで、よく見ると「はちゃめちゃ」な検討をしている場合です。どういうことかと言うと、1/400のプランニングをするためには、その前段階の倍コマが絶対に必要であり、倍コマの前にチビコマの検討が必要であり、その前にボリューム検討や建築可能範囲の検討が必要なのですが、それぞれの検討が連動していない状態というか、せっかくチビコマでゾーニングは上手くいってそうなのに、次の倍コマで、全く関係のない室配置をしてしまっているという状態です。

偉そうなことを言ってますが、自分も、ここを理解し、出来るようになるのに長い年月を要しました。しかし、順序立てて、慌てず、ちゃんと「前段階の検討を踏襲する」という意識さえ持ってエスキスすれば、意外とすぐにコツを掴めるような気がしています。

まだまだ暑い夏は続きそうですが、健康管理には十分に気をつけて頑張って頂ければと思います。

過去問研究のススメ②

前回に引き続き、H27年の過去問を考察したいと思います。

H27年の課題は「市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅」でした。

この年のポイントを以下に列挙します。

  1. 【建物用途の理解】
    本来の建物用途は高齢者向けの「集合住宅」であり、低層階に、地域住民と集合住宅の居住者が使用できるデイサービスがあるという構成を、正確にイメージすることが大切だったと思います。つまり、デイサービスのみの利用者が、集合住宅がある基準階にも簡単に行けてしまう動線計画は、基本的にNGだったと思われます。この辺りは、H23年とは明確に違う部分です。ここの違いを、まずは押さえましょう。ここの違いを理解することが、実は全てかもしれません。それほど重要なことだと、個人的には考えます。
  2. 【レストランとギャラリーの位置】
    この年は、レストランとギャラリーの計画が求められており、これらをどこに配置するかということが、全体の建物構成に大きく影響しました。標準解答例においては、2例とも東側の商店街に向けて配置されていますので、必然的に管理ゾーンは西側にいきます。一級建築士製図試験においては、建物周辺の状況を正確に把握し、建物をどちら側に開くのか、あるいは閉じるのかということが、空間構成上、かなり重要なウエイトを占めています。ヒントは、課題文に必ず書かれていますので、一言一句、正しく読み取りましょう。
  3. 【明快なゾーニングと動線計画】
    2.と連動しますが、住宅部門・デイサービス部門・共用部門・(管理部門)を明快にゾーニングし、分かりやすい動線とする必要があります。そういう意味で、極めて個人的な感想ですが、標準解答例の二つの例は、どちらも今一だと思います。標準解答例①においては、1階の住宅部門用EVホール内にエレベーターしかなく、利用者用の階段が別のところにありますが、やはり、ユニバーサルデザインの観点から考えても、利用者用のエレベーターと階段はセットで計画し、分かりやすい位置に設けるべきと考えます。一方、標準解答例②においては、住宅部門の利用者用エレベーターと階段がセットで計画はされているものの、その階段が、個人的にはびっくりの一般階段となっています。しかも、基準階を見ると、バリアフリーに適応した、もう一方の階段は、デイサービス部門との兼用になっています。標準解答例は、あくまでも「標準」であって、「模範」ではないということをよく耳にしますが、何か釈然としないものを感じます。普通は、もっと明快なゾーニングと動線にすべきと考えます。
  4. 【屋上庭園の存在】
    基準階の3階に屋上庭園の計画が要求されました。特に、屋上庭園への「日照」は求められていませんでしたので、北側に配置しても全く問題なかったと思われます。基準階には、各階に12戸の住戸(約30㎡/戸)が求められており、普通に考えれば、3.5m×8m=28㎡を南側に12戸並べれば終了です。7mスパンが横に6コマ並び、42mになるという極めてオーソドックスなX方向の構成となります。ただし、屋上庭園に日当たりを考えてしまうと、かなりやっかいになります。標準解答例①のような住戸の南側に屋上庭園がある状態となり、住戸のプライバシーを保つことが難しくなるからです。課題文で特に求められていないのであれば、個人の思い込みは極めて危険です。とにかく、課題文は、正確に、素直に読み取りましょう。
  5. 【基礎免震構造】
    標準解答例を見ると明らかですが、断面図の基礎部分に免震層があり、1階平面図には基礎と地盤との間にエキスパンションジョイントが表記されています。この年は、課題発表時に基礎免震構造のことが言及されており、この箇所の対策はバッチリだった受験生が多かったと思います。従いまして、ここでの合否の差は少なかったと思われますが、1階平面図において、免震層への点検用出入口等が要求されており、この「等」が意外とくせ者だったと思っています。どういうことかというと、ほとんどの受験生が点検用出入口とエキスパンションジョイントをセットで描いたと思うのですが、エキスパンションジョイントの表記は直接求められていませんでしたので、省略してしまった人も居ました。ですが、発表になった標準解答例では二例ともEXP.Jの表記がなされています。つまり、「等」に該当する箇所と思われ、表記がない場合は確実に減点されたことが伺え、ここでの減点差がランクⅠとⅡを分ける要因の一つにもなり得たと思っています。

以上、そこはかとなく書き連ねてみましたが、参考にして頂ければと思います。特に、上記の5.で書いたことは結構重要で、ランクⅢとⅣを回避することは、さほど難しいことではありませんが、ランクⅠとⅡの差は本当に僅差であり、それこそ、ちょっとした描(書)き損じが合否を分けていると考えています。この辺りのことは、今後に回したいと思います。