鉄骨造の強度と剛性の問題

鉄骨造における強度と剛性について、H28年に出題された次の一文の正誤を判断しつつ、考察してみたいと思います。まずは、必要最小限の文字と数式で、概念的に解説しようと思います。
(「強度→壊れにくさ」「剛性→変形のしにくさ」ということも、念頭に置いてみて下さい。)

学科Ⅳ(構造)(1級過去問 H28(鉄骨造))から、

問 次の正誤を判定せよ。
曲げ剛性に余裕のあるラーメン構造の梁において、梁せいを小さくするために、SN400B材の代わりにSN490B材を用いた。

 

【解説】
まず、曲げ剛性はEIで表すことができます。
E:ヤング係数(N/mm2
I:断面二次モーメント(mm4

これに余裕があるわけですが、鋼材のヤング係数は強度に関わらず一定ですから、すなわち断面二次モーメントに余裕があると解釈できます。

通常、鉄骨造のたわみ量は、柱スパンの1/300以下にしなければなりませんので、それをクリアするための梁せいが必要になりますが、断面二次モーメントに余裕がある、すなわち梁せいを、もうちょっと小さくできると言っているわけです(梁せいが小さくなると、当然たわみやすくなりますが、それでも1/300以下を保っているということです)。

ところが、梁せいが小さくなってしまうと、たとえたわみ量をクリアしていたとしても、今度は強度が不足してしまいます(小さくなったんで)。

よって、引張強度400N/mm2の鋼材から、490N/mm2の鋼材へ代えたという設問の記述は正しいということになります。

以下に手書きの解説を付します(見にくくてすみません)。

最後に頻出の留意事項について記したいと思います。
よく、「たわみを小さくするために、鋼材の強度を上げた」というような設問を目にすることがありますが、断面形状等その他の条件が同じ場合、これは誤りとなります。

なぜなら、上述のたわみの式からも分かるように、たわみを小さくするためには曲げ剛性EIを大きくしなければなりませんが、鋼材については、強度を大きくしてもヤング係数Eは変わらないので(下図参照)、たわみ量に影響しないからです。具体的にたわみを小さくするためには、断面二次モーメントを大きくするとか、作用する荷重を小さくするとか、スパンを短くするとかが必要になります。

以上、よく吟味して頂ければと思います。

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